連濁論:ライマンの法則について

今回のブログでは、Lyman(1894)を主として解説していきます!

(また、私自身はLyman(1894)の原文に目を通しておらず、日本語訳に関しては屋名池(1991)を頼ったことを明記しておきます。)

その前に少しこの記事の読み方について簡単に解説をしておきたいと思います。

まず、上記のように【Lyman(1894)】は【論文を書いた人,もしくは書いた人の代表の名前(書かれた年)】を表しています。
つまり、【Lyman(1894)】はLyman氏が1894年に書いた論文。ということですね。また、今回の【ライマンの法則】はこのLyman氏の名前を使用している訳です。

このブログの一番下に、【参考文献一覧】があります。このブログで使用した論文とその論文が載っている書籍の名前などを示しています。 URLがあるものは、ネット上で読めるものになっています。ぜひ読んでみてくださいね。

専門用語を定義の厳密性のために使用することがありますが、その場合は簡単な文での言い換えを行うことがあります。ただ、言い換えの場合は定義の厳密性の保持が必ずしも行われているとは限らないので、ご了承ください。気になる方は、事典等で検索するなどお願いします。

また、ブログの著者自ら用語の定義を行うことがありますが、これはこのブログの内容を一貫するためです。他の論文では定義が違う可能性も有り得ます。

その他、最新の注意を払っていますが、誤字脱字がある場合や著作権的な問題に心当たりがあればお知らせください。検討の上、修正します。

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ここからが本編です

1.連濁について

まずは、【連濁(れんだく)】の定義から始めていきましょう。まずは例をあげます。

・山(やま)+桜(さくら)→やまくら
・川(かわ)+口(くち)→かわ
かつお+節(ふし)→かつお

これが連濁という現象の例です。共通点を探してみましょう。分かりますかね?



<+>の後ろの語を見てみましょう。「さくら→くら」「くち→ち」「ふし→し」というように、一番最初の音が清音から濁音になっていることが分かると思います。

山桜・川口・かつお節……のように2つ以上の語がくっついてひとつの語になっているものを【複合語】といいます。

清音とは、表記上では<゛(濁点)>がつかない五十音を示します。つまり、通常は「あ行〜わ行」までを指します(「ん」「っ」は抜く)

ただ、今回の場合は、濁点がつくかつかないかの区別がある五十音行の音に限定します(「か、さ、た、は」行)。濁音は逆に濁点がついている五十音です(「が、ざ、だ、ば」行)。
最近は、カイジなどで「と゛う゛し゛て゛た゛よ゛」のように表記されることもありますが、このような表記は今回は無視します。

少しだけ専門的な用語で言うと、「か、さ、た、は」とその濁音形は阻害音と言われるものです。つまり、日本語において清濁の対立(区分)があるものは、この阻害音グループであるということが分かります。

上で見た現象をまとめると以下の通りになります。

"複合の際、後部要素の語頭音が清音である場合に濁音化する"

簡単に言い換えると、

"複合のとき、後ろの語の頭の音(「さくら」ならば「さ」)が清音である(か、さ、た、は)場合に、濁音化(か→が、さ→ざ、た→だ、は→ば)する"という事です。

この定義によって、「やま+さくら」が「やまくら」になる事に説明を与えることが出来ました。さて、これで連濁を全て説明したことになるでしょうか?

まだ、ライマンの法則が残っていることを忘れていませんよね?次章はライマンの法則についてです。

2.ライマンの法則

先にも説明したとおり、Lyman(1894)にて言及されているものですが、それよりも早く本居宣長にその傾向が発見されていたことから、【本居・ライマンの法則】とも呼ばれます。

先程説明した連濁の定義をみると、複合語の語頭音に清音が来れば、かならず濁音化するという風にとれますが、それは事実なのでしょうか。いくつかの反例(先程の定義に従わない例)を上げます。

・ひがし(東)+かぜ(風)→ひがし
・やま(山)+かわ(川)→やま
・もん(紋)+しろ(白)+ちょう(蝶)→もんょう
・オープン+カー→おーぷん

これらの例は、先程の定義では連濁する条件を満たすものであるのに連濁していない例です。
また、これらの例はそれぞれ違う理由で連濁を回避しています。今回は、1番上の「東風」がなぜ連濁しないのか、ということを取り上げていきましょう。

さて、1番上の例と同じ理由で連濁を回避していると見られる例をいくつか上げます。

・まっこう+くじら(鯨)→まっこうじら
・おお(大)+とかげ(蜥蜴)→おおかげ
・ごみ+くず(屑)→ごみ

太字の部分が連濁していないことはわかると思います。共通点はなんでしょうか?



"後部要素に既に濁音が存在する"ですよね。

一般にライマンの法則と言われるものは、この傾向のことを指します。つまり、

【ライマンの法則】
"後部要素の第二音節以下に既に濁音が存在する場合、連濁しない"

という定義になります。少し簡単に言い換えましょう。

"後ろの語の前から2つ目の音より下に濁音があれば(「くず」の「ず」や「とかげ」の「げ」)、連濁しない"

さて、これで一番最初に行った定義の修正が出来そうですね。

【連濁】
""複合の際、後部要素に既に濁音が存在せず、後部要素の語頭音が清音である場合に濁音化する"

つまり、

・ひがし+かぜ→ひがし

は、「かぜ」に既に濁音が含まれているので連濁しない、ということになります。

ただ、ライマンの法則はかなり強い規則ではありますが、例外がないことはないです。代表的な例として、「はしご」があげられます。

・なわ(縄)+はしご(梯子)→なわしご

これは先程の定義に反するものになります。他にも数例の反例があります。ここではあげないので、ぜひ自分で探してみてください。

また、このような違反に関しては、鈴木豊(2005),(2008)に詳しい研究があるのでぜひ参照してみてください。

ライマンの法則の存在理由に関しては、当ブログでは詳しく言及はしません。先にあげた鈴木豊の論文で触れられているので興味があれば呼んでください。

さて、今回は【連濁】と【ライマンの法則】について取り上げてきました。勿論、連濁するかしないかというのはこれだけで判別できるものではありません。次回は、語種にも触れていこうかなと思います。


【参考文献】
屋名池誠(1991): 「<ライマン氏の連濁論>原論文とその著者について」

https://opera.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_action_common_download&item_id=5126&item_no=1&attribute_id=19&file_no=1&page_id=13&block_id=21
(上記論文の原論文)
J.S.Lyman.(1894): The Change from Surd to Sonant in Japanese Compounds

小倉進平(1911):「ライマン氏の連濁論(上)(
下)」

http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/PDF/ogurasinpei/rendakuron.pdf

鈴木豊(2005):「ライマンの法則の例外について 連濁形「-バシゴ(梯子)」を後部成素とする複合語を中心に」

https://www.u-bunkyo.ac.jp/center/library/image/fsell2004_249-266.pdf

鈴木豊(2008):「ライマン法則例外の成立過程について ――「タカラガイ」(宝貝)を後部成素とする語の連濁――」

https://www.u-bunkyo.ac.jp/center/library/image/fsell2007_279-294.PDF